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ひぐらしの泣かせ方

以下は「とらのあな」フリーペーパーである「虎通」11月号初出、その後同社Webに掲載された「ひぐらしのなかせ方」という07thExpansionスタッフインタビューからの引用です。

http://www.toranoana.jp/higurasi/higurashi_book00.html
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[竜](中略)だから、あの〜…大勢の方が「こないだのコミケで続きが出ていた“らしい”」という話になってて、で「コミケ以外では手に入らないのか?」と。そういう方々の多くがコミケには行った事ないとか、秋葉原にも行った事がない、ということだったので。「コミケにいらっしゃる方」以外からの要望が多かったというのがショップにお願いしようと思い立った動機ですね。で…ショップに委託する時の仕様書ってあるじゃないですか?
(中略)
「CGは0枚…」「18禁は無し…」。たしか自分で書いていて「これ、俺が仕入れ担当者だったら絶対取らねーよなー」って(笑)…思ってたところで。それで、以前からお世話をお願いしていた矢野さんに「この作品なんだけどどうでしょう?」という事で、色々ご紹介をお願いしたんですけど。(以下略)
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すでに既出ですが、2005/1/12の段階で07thExpansion公式Webに「『ひぐらしのなく頃に解』納品遅れのお詫び」と題してサークル代表の竜騎士07氏によるコメントが記載されています。

①納品遅延とその後の順次発送についての「同人ショップ」に対するお詫び
②原因はサークル側にあり「同人ショップ」「プレス会社」に非がない事の「消費者」への説明
③順次発送を決定した責任者である矢野氏(NECO青龍代表)との関係を清算した事
④今後は07thExpansionが直接事務を行い、厳正かつ公正に行う様努める事

要旨をまとめると上記の通りかと思います。
一方で責任者の矢野氏も謝罪文を掲載しています。

①順次発送の責任は自分にある事
②その後の説明内容が不適切であった事
③結果迷惑をかけた「プレス会社」「同人ショップ」「作者」「消費者」へのお詫び
④作者と協議の上、窓口調整を辞する事

要旨をまとめると上記の通りでしょうか。

さて上記2つの内容は概ね同じ内容ですが、一点だけ決定的に異なります。それは謝罪対象に「消費者」が入っているか、入っていないかです。その点に気がつくとこの2つの謝罪文は実は正確が違うものだという事に気がつきます。
つまりNECO青龍矢野氏は「順次発送の判断ミス」による被害を受けた人に謝罪していますが、竜騎士07氏は「順次発送の販売機会損失」による被害を受けた人に謝罪をしているという事です。端的に言うと竜騎士07氏は「発売日変更」によって12日〜14日に買いに来て手に入らなかった「消費者」については責任を考えていないという事です。

さて、そもそも「1月12日」「1月14日」という日付はどこから出てきたのでしょうか。発売日変更の経過を見てみましょう。

公式Webの掲示板では2005/01/01(Sat) 06:41 No.2929 にて矢野氏がショップ通販予約開始状況を報告しています。この内容では「とらのあな」は含まれていません。更新履歴を見ると「とらのあな」は2日から予約開始した様です。但し予約締め切りはトップで1/3でした。その後2005/01/01(Sat) 07:03 に矢野氏が1/7発売を告知しています。
発売変更については2005/01/05(Wed) 17:04 No.3065 にて竜騎士07氏が「1/12」に変更になったと告知しています。しかし「とらのあな」通販ページでは1/5の段階で「1/14頃」を告知しています。この辺りから情報が錯綜していたのか、通販ページは余裕を持った告知をしているのかは不明です。
一方で矢野氏のサイト「ルーミアわはー記」でも 2005/01/06(木)14:33 の段階で出荷進行が遅れている事、そして順次発送になった事が記載されています。特筆すべきはこの書き込みに「実際の販売状況把握に努める予定です。(何処に納品されるのか把握できていません)」と記載されている事です。つまりこの段階では順次発送について大きな問題と捉えていなかった事、順次発送で納品のある店と無い店が発生する点を把握していた事が分かります。
1/8には先行して入荷した同人ショップで販売が始まりました。翌1/9には矢野氏の言動が不自然(「取りあえず地の果てまで逃げたくなる」など)になり、何らかの問題が発生した事が伺えます。
さて「とらのあな」は発売日を当初1/7と告知し、その後1/14頃と告知していました。ところが他の同人ショップで発売日を細かく表記した所はありません。メッセサンオーを筆頭に1月上旬など非常に曖昧な表現をしています。つまり「1/12」「1/14頃」の発売日表記は竜騎士07氏や「とらのあな」が行った事になります。竜騎士07氏は「プレス会社から携帯に」連絡があったと記載しています。もちろん矢野氏からも連絡があったものと思いますが・・・。つまり掲示板記載はある程度共同判断なのだと思います。一方「とらのあな」はサークル側からの変更連絡を受けて日付を変更しました。しかし「発売時期・価格は予定です。発売までに変更される可能性がございます。予めご了承下さい。」と明記している様にあくまで予定を掲載しているにすぎないのです。この日付には責任を取らないとのスタンスです。
「消費者」は1/12頃ショップに買いに行って、すでに完売した状況に怒りを覚えました。しかしこの1/12頃の根拠は「とらのあな」通販入荷予定日付と竜騎士07氏の書き込みだけになります。「とらのあな」は事前に変更の可能性があると告知しているので、発売日根拠にはなりません。一方竜騎士07氏の書き込みは公式サイトでの作者コメントなので「消費者」の発売日根拠として十分と言えるでしょう。この事から考えると「発売日変更告知義務」を怠った責任は竜騎士07氏にあると言えるのではないでしょうか・・・?

・・・言えませんよね、掲示板では1/8の段階で「買えました」とのコメントが続々寄せられています。つまり公式サイトで発売日を確認したのなら、その後発売日(と思っていた)前にすでに売っているとの情報も確認できたはずです。「そんなに毎日Webなんかチェックできない」との反論もあると思います。それならば竜騎士07氏がその後再度発売日を変更する可能性なども考えなかったと言えます。つまり公式Webに告知していたとしても、気がつかなかったと言えます。
つまり何を訴えたいかというと、みんなで「発売日」と思っていた日付はその程度の根拠しかない脆弱なものだったのです。なぜそんな脆弱な日付を拘束力のある「発売日」と思い込んでしまったのでしょうか?そもそも考えてみてください。例えば次の「Digital Lover」(なかじまゆかさんのサークル)の新刊発売日はいつですか?多分イベント合わせの日付でしょうが、ショップ入荷日となると不明です。そもそもいつ新刊がでるかもサークル側に主導権があります。つまり元来、ショップ発売日が確定している同人グッズは皆無なのです。

しかし「ひぐらしのなく頃に」は違いました。2004年夏コミ以降のショップ発売は1次〜4次程度出荷を行ってきました。その過程でブームは加速していったのですが、なでこれほど急速に加速したかと言えば発売日を明確にして、「人の流れ集約」と「ニュース性の提供」を徹底して行ったからです。極めて「商業的」ですが、逆にいうと世の中の商品としては至極当たり前の事です。世の中の商品の大半は「発売日」を明確にして、その発売日に「責任」を追う事が当然なのです。

さてその発売日を守れないとどのような事態が発生するのでしょうか?それはクレーム処理です。今回ショップには発売日を守れなかった事で相当なクレームが発生していると思われます。ましてや、入荷した所とそうでない所で1週間程度差がでている訳ですから・・・。しかし発売日を明確化していたのは、私の知る限りでは「とらのあな」だけだと思います。他はかなり曖昧な表記をしていたのではないでしょうか?つまりサークルが「発売日変更告知義務」を怠った事での被害を受けたショップは「とらのあな」だと考えられます。逆にいえば「とらのあな」通販申し込みを行った「消費者」にだけクレームを言う権利があるのではないでしょうか?そしておそらく、そのクレームは今度は「とらのあな」からサークルへのクレームと発生するでしょう。サークル側の対応不備の結果当社は大きな損失を被った、という形で。

私はここまで「消費者」という表記で統一してきました。発売日を要求して、それが実行できない時に何らかの責任行動を要求する。一般的な「消費者」の権利でしょう。商業流通物では。しかし「同人」においてはどうなのでしょうか?

冒頭で竜騎士07氏のインタビューを引用しました。ネットで話題となって「ひぐらしのなく頃に」を知ったがコミケ秋葉原には言った事がないとの問い合わせを受けて、ショップ委託を考えたとコメントしています。別のインタビューでは「月姫」を知らない人もいるとコメントしています。もちろん地方でやむを得ない場合もありますが、ショップ委託でしか同人グッズを買わない最近の人がこの中には多く含まれているのではないでしょうか?竜騎士07氏が矢野氏の力を借りながら、なんとか始めたショップ委託。それによって最も恩恵を受けた人達こそ「消費者」です。そして今回の騒動でその「消費者」がもっともクレームをつけている。そんな皮肉な構造なのではないでしょうか。

今回の騒動の謝罪について竜騎士07氏と矢野氏にスタンスの違いがある事は、最初に述べた通りです。発売日がずれた事と随時発送の事実は1/5の段階でサークル側で把握していました。しかし特にアクションはありませんでした。ところがいざ販売が始まった1/8以降に矢野氏との関係が悪化、またショップに対してのクレームが上がりだしたタイミングで、直ちに矢野氏との関係を清算しています。この事は「消費者」のクレームよりも、その「消費者」を大量に生み出してくれる「同人ショップ」のクレームを受けての対応だった事を意味しているのではないかと考えられます。

・同人グッズを「商品」としてしか見ない「消費者」層の拡大。
・商業主義展開を行う事のリスク感覚と責任意識の低い「サークル」。
・激化する同人グッズ市場でのキラーコンテンツを奪い合う「同人ショップ」。
三者の利害の絡み合った結果、生み出されたのが「ひぐらしのなく頃に」であり、その問題点が透けて見えたのが今回の騒動だったのではないでしょうか。

9月に初めてこの作品と出会った「消費者」として私個人として、矢野氏の件は非常に残念です。「ひぐらし」ブームを仕掛けたのは氏の力に拠る所が大きいのではないでしょうか。矢野氏がいなければ、莫大な作品群の中で埋没していった事でしょう。それを多くの人の耳目に触れる形にしたからこそ、内容のすばらしさが世間に伝わったのですから。その事を考えると迅速な対応はショップの言いなりに「トカゲの尻尾」を切ったとの印象を拭えません。ここまで商業主義化して「会社」としての責任を求める必要があるのでしょうか?
発売日がバラバラになった結果、販売機会損失を受けたのは事実でしょう。しかしより自分達に便宜を図ってくれる所に早く入れる事なんか、一般社会では日常茶飯事です。発売協定がある商品なんかむしろ稀な存在です。ショップからクレームが来たとすれば、それは発売を一斉に行わなかった事ではなく、なんで自店を優先しなかったのかという事だと思います。常識的にいって、どのショップが最初に入るか分からないなんて事態はありえません。プレス会社でわかるでしょう。プレス会社の順次出荷と偽って、何らかの優先順位で出荷した矢野氏に対して、どこかのショップが圧力をかけて、その圧力に屈した。その辺が真実ではないでしょうか。

各地のファンに「ひぐらし」を届けるために選択したというショップ委託。その功罪がわかるのはこれからなのかもしれません。